
家族信託の実例紹介
老人施設への入所

上の段の「一般の場合」は、何も対策をしなかった場合を示しています。
家族信託において、この「ケース1」が圧倒的に多く、全体の7~8割を占めます。
例えば、一人暮らしの母親が高齢者施設に入所した場合を考えましょう。
母親が高齢者施設に入所しても、しばらくの間、自宅をそのままにしておくことはよくあります。意思判断能力があるうちは、自宅をすぐに売却することは避けることが多いです。
自宅を売ってしまうと、もう帰る場所がなくなるからです。
しかし、母親の判断能力が失われつつある状況では、自宅の売却を考えるでしょう。これは母親の介護費用を捻出するためです。しかし、その時に母親が判断能力を失っていた場合、自宅を売却することはできません。
法律行為ができない状態だからです。
唯一の方法は成年後見制度を利用することですが、母親が認知症になる前に家族信託契約を結んでおけば、母親が認知症になっても、子供が母親の代わりに自宅を売却することができます。
そして、その売却金を介護費用に充てることができます。
施設に入る際には、自宅を売るか売らないかに関わらず、家族信託を検討しましょう。

現金資産のみを信託財産とする場合

家族信託では、信託財産として現金や不動産を設定できます。
このケースでは、現金のみを信託する例を説明します。
現金のみの信託を設定する理由は、不動産を信託財産にすると信託登記に費用がかかるためです。
お客様の要望も変化しており、認知症になった際の施設入所費用や、母親の年金収入をあらかじめ計算し、その必要な金額を信託するという考え方が増えています。
これは、最も簡単でリーズナブルな家族信託の方法です。
信託財産として現金と不動産をどのように組み合わせるかを検討してください。

共有不動産のトラブル回避

自宅の不動産は誰の所有になっていますか?
お父さん、お母さん、そして長男や長女が共有しているケースも多いでしょう。
このような場合、問題が生じることがあります。
お父さんかお母さんが認知症になった場合、共有不動産は残された家族が自由に売却できません。
その結果、病院費用や施設入所費を肩代わりする必要があります。
このようなケースは決して少なくありません。
共有不動産には注意が必要です。

障がいを抱えた子を持つ親

「親なきあと問題」が今、深刻な課題となっています。
障がいをある子の親が亡くなったり、認知症になったりした場合、その子の生活はどうなるのでしょうか?
最終的には市区町村長の申し立てで法定後見人がつく可能性がありますが、親が遺した財産が子のために使われないこともあります。
そこで、法定後見人がつく前に家族信託を検討してみましょう。
親の生前に、子の面倒を見てくれる人や団体に財産を管理してもらう方法です。
法定後見制度下では、信託財産も成年後見人の監視下に置かれますので、対策は早めに取りましょう。
「親なきあと問題」には、家族信託という選択肢を考えてみてください。

家族信託に関するよくあるご質問
Q 親が認知症になっても家族信託は出来ますか?
A: 親が認知症になってからでは家族信託の契約はできません。
契約には当事者の意思判断能力が必要です。
そのため、家族信託を考える際は、親が元気なうちに検討を始めることが重要です。
Q 家族信託は自分でできますか?
A: 家族信託は「信託契約書」を作成することで成立します。
法律上は専門家の関与が必須ではなく、自分で行うことも可能です。
しかし、銀行の信託口座の開設や公正証書の作成など、多くの場合に専門家の関与が必要です。すべての手続きを自力で行うのは非常に困難であるため、専門家に依頼することをお勧めします。
Q 信託する預貯金額はいくらにする必要がありますか?私は財産を多く持っていないので、家族信託なんて大それた行為でしょうか?
A: 信託する預貯金額は、将来管理が必要な金額を考慮して決めます。
初めは少額でも問題ありません。たとえば、最初に100万円でもかまいません。
家族信託は、お金持ちだけのものではなく、親の財産を有効に管理するための方法です。追加信託を設定すれば、後から金額を増やすことも可能です。
重要なのは、お子様への負担を減らすことです。
Q 追加信託は、不動産にも適用できますか?
A: 不動産を追加信託する場合、信託登記が必要になるため、通常の追加信託とは異なります。
具体的には、新たに契約の変更手続きを行い、登記手続きを完了させる必要があります。
不動産の信託には、手続きが複雑で費用もかかるため、初めから不動産を含めた契約を考えるか、契約変更のタイミングと手続きについて専門家と相談することをお勧めします。
Q 信託銀行や信託会社は世間の目があり心配していないのですが、家族信託の場合、信託した財産を勝手に使われてしまうことはないでしょうか?
A: 家族信託では、信託財産は信託契約に基づいて使用されます。
信託契約書に明確な使用目的やルールを記載しておくことで、不正使用を防ぐことができます。
また、心配であれば信託監督人や受益者代理人を設定することで、信託の適切な運用を監視する仕組みを導入することができます。
信託監督人や受益者代理人は、契約が遵守されるよう監視し、問題があれば適切に対処します。
Q 家族信託に際し、他の家族の同意は必要ですか?
A: 家族信託は委託者と受託者の契約ですので、法律上は他の家族の同意は必要ありません。
しかし、契約を締結する際に他の家族の同意を得ていないと、後で親族間でトラブルになる可能性があります。特に信託財産が多額であったり、他の家族も関与する可能性が高い場合、事前に家族全員と認識を共有し、合意を得ておくことが重要です。
信託契約の透明性を保ち、親族間の信頼関係を維持するためにも、事前の合意形成をお勧めします。